地域物語 第17編「高麗郡の遺跡 日高歴史トピック」

更新日:2024年03月21日

歴史名勝No55 「小畔川沿いの遺跡群」

ー奈良、平安時代の高麗郡こまぐんを語る遺跡ー

いせきふくげにらすと

発掘調査から復元した拾石、王神じっこく おうじん遺跡

日本の歴史書に出てくる「高麗こま」の地名

奈良時代、日高市の一大歴史トピックが起こります。「日本書紀にほんしょき」に続く歴史書「続日本紀しょくにほんぎ」の元正天皇霊亀れいき2年(716年)の条に高麗郡を建郡する記述があります。高麗の地名があること、日高市、飯能市に弥生、古墳時代の集落が希薄であることなどから両市を中心とした地域に高麗郡が置かれたと考えられています。

この記述に呼応するように、両市は奈良時代、平安時代に集落が爆発的に増えます。日高市では東部を流れる小畔川こあぜがわを中心とした地域に連綿と集落が営まれていきます。

区画整理事業で現れた郡家関連遺跡 −拾石遺跡・王神遺跡−

区画整理事業に伴い広範囲な発掘調査を実施した県立日高校周辺にある拾石じっこく遺跡、王神おうじん遺跡からは8世紀中ごろか10世紀にかけての竪穴住居跡たてあなじゅうきょあと掘立柱建物跡ほったてばしらたてものあと井戸跡いどあとなどのほか、道路跡や水田用の考えられる水路跡なども検出され、集落全体の姿がわかる貴重な発見となりました。

じっこくいせき

拾石遺跡(四角く掘られているのが竪穴住居跡)

拾石遺跡では役人が身に着ける石製巡方せきせいじゅんぽう石製丸鞆せきせいまるともうるしを扱う際にふたとして使用した紙(漆紙)、箸置はしおきである耳皿みみざらなどの特殊な遺物や、「くりや」「家長」「南家」「貞」「坏」「田」「万」などの墨書土器ぼくしょどきが出土しました。

うるしがみがはいったつき

漆紙うるしがみ

漆が入った器にほこりが入らないよう蓋をしていた紙が落ち漆を吸ったことで紙が残りました。

みみざら

耳皿みみざら

箸置きとして使用しました。

くりやどき

くりや」の墨書土器

かちょう

「家長」の墨書土器

まるともじゅんぽう

丸鞆まるとも巡方じゅんぽう

やくにんいらすと

王神遺跡では鳥の羽の形をしたすずりの蓋の一部などが見つかりました。

両遺跡は、役人が着用するものや、文字を書く道具、祭祀さいしで使用する道具など、高麗郡の役所である郡家と関連する人物が住んでいた可能性が高い集落と考えられます。特に「厨」と書かれた墨書土器の出土は近くに高麗郡家こまぐうけがある可能性を示しています。

716年に置かれた高麗郡は、1180年後の明治29年(1896年)に入間郡に合併され姿を消しました。

おうじんいせきいっく

王神遺跡1区(写真下方は東西に延びる道路跡)

おうじにせきごく

王神遺跡5区(東西や南北に軸を持つ掘立柱建物跡が「L」の字に配置されています。)

とりがたすずり

鳥の形をした硯の羽根の一部が検出されました。形象硯の出土は大変珍しく貴重な発見でした。

新宿遺跡

やまもとぼくしょどき

「山本」と書かれた土器

旭ケ丘交差点の東に位置する新宿じんじゅく遺跡からは、8世紀中葉から9世紀後半の住居跡11軒や井戸跡が検出されました。「山本」と書かれた墨書土器は、貞観14年(872年)の『貞観寺田地目録帳じょうがんじでんちもくろくちょう』(仁和寺文書にんなじもんじょ)に出てくる武蔵国高麗郡山本荘との関連資料として注目されます。

堀之内遺跡

堀ノ内遺跡は拾石、王神遺跡と小畔川こあぜがわを挟んだ対岸に位置する奈良、平安時代から中世まで続く遺跡です。竪穴住居跡たてあなじゅうきょあと160軒、掘立柱建物跡ほったてばしらたてものあと54棟、井戸跡いどあと100基などを検出した大集落跡です。今後の整理作業で新たな報告が出来ると思います。

くかくせいりがおわったまち

区画整理が終了した新しい街 

歴史名勝No56「若宮遺跡(女影廃寺)」

おなかげはいじ

女影おなかげ」交差点付近あると考えられる女影廃寺おなかげはいじは、8世紀に創建されたと考えられる奈良・平安時代の寺院です。位置はまだ特定されていません。遺跡から出土したと言われる面違え復弁8葉蓮華文軒丸瓦ふくべんはちようれんげもんのきまるがわらの年代から高麗郡建郡間もなく創建されたと言われています。この瓦は常陸国ひたちのくに新治廃寺にいはりはいじと同じ木型から作られた瓦で、新治廃寺創建後、女影廃寺創建のためはんを移動したと考えられます。版の移動は国家の意思が働いていることから、女影廃寺は郡の寺 だったと考えられています。しかし実物が残っておらず明確ではありません。 出土した瓦の多くは8世紀の中葉以降、9世紀のもので、この時期には瓦をく建物があったと考えられます。若宮遺跡からは瓦のほか、「寺」、「僧」と書かれた墨書土器など寺院に関連する遺物も出土しています。

かわらがでたどこう

瓦が出土した土壙どこう

しゅつどいぶつ

若宮遺跡出土品(市指定文化財)

のきまるかわら

軒丸瓦のきまるがわら

のきひらかわら

軒平瓦のきひらがわら

位置図

位置図